never let me go

ちなヤク精神科医の読書日記

【感想】 宮下奈都「太陽のパスタ、豆のスープ」

 2023年1月29日に読了。
 読み終わってやれやれ寝るかと思ったけど、寝る前に感想書いておこうと思って読書メーターに残したのはこちら。

あすわは私の仲間だと思ってたのに、一目惚れの件であっさりと裏切られた。傷ついて再生の日々を送っている最中に一目惚れしてくれる人が現れたら誰だって楽しい気持ちになるよとひと通りぷりぷりした後で、この話はおとぎ話なのだと気付いた。だってロッカさんは妖精だもの。京も郁ちゃんも、みんなみんな妖精だ。これは限りなくリアルなおとぎ話だった。
何にしたって、私は私のパンを見つけなきゃいけない。はーー、生きるって大変だ。でも、きっと自分だけのパンを撫でるのは幸せなことだから。そう信じて明日もパンを探すのだろう。

 わたし、読書メーターの感想は『できるだけ完結に』と決めて始めたんだけど、もうさ、止まらなかったよね。5冊目にして早速文字数上限まで書いたよ。

 逆に言うと、わたしはそれだけ感情移入しながら読んでいたのだ。
 勝間和代さんのホットクックレシピをちょこちょこ試しているわたしは豆がちょっとしたブームだ。豆ごはん、蒸し豆のサラダ。いつか読もうと思っていた宮下奈都さんの棚で『豆』の文字を見かけて手に取った本だった。裏のあらすじを見かけて、「あーこれはわたしの本かもしれぬ」と思って、「羊と鋼の森」と一緒にレジに持っていったのである。

 一目惚れまでは楽しく読んだよ。ロッカさんはフェアリーだなあと思いながら楽しく読んだよ。でも、一目惚れのくだりがでてきた時点で一旦本を閉じた。
 だって、普通に生きていて一目惚れはされないもん。読書メーターで見かけた「リアルな」って感想を書いてる人たち、日常的に一目惚れされてるの???マジで?????どこの世界線の方ですか??????

 とまあ妬みはさておいて。
 かつてのわたしは好きな作家に長嶋有さんを挙げていた。あれくらい何もない感じがいいんだなって改めて思った。
 だってさ、わたしは傷ついたからこそこの小説を読もうと思ったわけで。豆に惹かれてこの小説を手に取って、裏のあらすじ見て「わたしの本かもしれない」と高揚した気分でレジに持っていったのに。
 
 この裏切られ方、あまりにもあんまりじゃない?
 失恋の薬は新しい恋だ、みたいなのは食傷気味というかマジで食傷してるんで、そこまで至らなかったことにはほっとしてるけれども、正直同じくらいおいてきぼりを食らった気分だよ。
 29日のわたしが寝る前に書いたように、『傷ついて再生の日々を送っている最中に一目惚れしてくれる人が現れたら誰だって楽しい気持ちになるよ』。そうじゃないから苦しんでるんだよ。なんで一人だけ先にいくの? 明日じゃない、今日羽ばたいてるじゃん。わたしだって今日羽ばたきたいよ!!!今日だれか一目惚れしてくれ!!!(?)

 わたしがひねくれすぎてるんだろうなあというのは認める。認めるけど、一目惚れと若い子が病気で死ぬのと夢オチは同じくらいわたしは嫌いなんだなということがわかった。嫌いなものの並びを見て自分にウケている。偏読がすごい。


 あすわにおいてきぼりを食らったままでいたくはないので、考えることにする。わたしにとってのパンはなんだろう。10年前までは音楽であり、スピッツであり、キリンジだった。カタカナのキリンジは存在しないし、スピッツはかつてほどの鮮やかさでは救ってくれない。
 読書なのかもしれない、とは思う。今こそ、読むべきなのかもしれない。

 わたしは文字を愛している。それはもう、音楽を好きになる前からだ。冬の異国の地、テレビは何を言ってるかわからず、外は雪で出て行けず、何もすることがなくて仕方なく手に取った本。初めは絵本の絵を眺めていただけだったけど、物語を読むようになった。次第に絵はいらないなと思った、文字だけ、文字だけがほしいと、母が買い揃えてくれていた名作全集に手を伸ばした。挿絵が入るとその分読める文字が減るので残念だった。長靴下のピッピでポルトガルの首都はリスボンだって覚えた。とにかくずっと読んでた。
 学校に行って、英語も読めるようになったら英語の本も。小三のときにランチのあとの読書の時間、衝撃が走ったロアルド・ダール。お願いしてあったチャーリーとチョコレート工場だけじゃなくて、マチルダと、魔女たちと、何冊も買ってきてもらえたのが嬉しくて号泣して両親を戸惑わせた。英語の本と比べると日本語の本が貴重すぎて、ヤオハンに行く度に買ってもらえるのが嬉しかった。いつでも日本語の本が買えるシカゴが大好きだった。わたしの読書の原体験。

 わたしは文字を愛してるんだから。もう少し大事に愛せばいいんじゃないか。
 どうすれば妻を愛せるでしょうというのは愚問だと何かのビジネス書で読んだ。愛すると決めたなら、愛するだけなのだ。
 わたしが見向きしなかっただけで、わたしのパンはもうとっくにわたしの手の中にあったんじゃないか。

 あれ? 書いてるうちに気づいたけど、わたし、もしかして全然置いていかれてない??