読み終わったのは水曜日2月1日。
中学の卒業式の恩師との件で涙が出て、読み終わったあとさめざめと泣いた。本屋さんへ向かう途中、横断歩道を歩きながらまた泣いた。
主人公の衝動、真下の混乱。程度こそここまでではなかったけど、どちらも身に覚えのあるものだ。
私には山井の気持ちを「わかる」ということはできない。だけど、彼の境遇を知り、彼自身に寄り添うことはできるんじゃないかと思う。わたしが診療を通して患者さんたちにやってこようとしてきたことを、主人公は山井にしている。
強く肯定してもらえたと思った。作者の中村さんは山井ではないし、精神科患者でもないし、わたしが肯定してもらえたと思うのはお門違いとも思うけれど、でも、ものすごく救われた。山井よりもわたしが救われた。
奇しくも、わたしも似たようなことを患者さんに言われたばかりなのであった。
「先生がわたしのお姉ちゃんだったらよかったのに」
主人公の『弟』のことがあってこその山井の言葉ではあるのだけど、自分のことにリンクして心が震えた。
兄弟だったらよかったのに、と言われて単純には喜べない。そう思ってもらえたことに喜びを感じたところで現実は違う。兄弟ではない。現実は苦しいままだ。
だけど、そういう存在がいるだけで本人がほんの少しでも楽になってくれるのなら、と祈るしかない。
精神科医は祈る仕事だなと思う。周囲がどれだけ助言しようとサポートしようと、最後は本人が選び、生きていく。無力感に襲われることも少なくない。「何もかも憂鬱な夜」を過ごす日もある。そんな自分を鮮やかに救ってくれた一冊になった。
読書メーターに感想を書いてから他の人たちの感想を読むのが読了後の楽しみなのだけど、今回は本当にびっくりした。
この話の主人公や真下が思うことは思春期を通過したことのある人なら誰しもが経験しているものだと思ってた。「難しい」「読みにくい」……嘘でしょ? 真下のノートなんか、わたしが書いたものかと思うくらいだったよ。きっと誰もが共感性羞恥で死ぬところだと思ったのに、そうでもないんだ……
改めて、人間の多様性について考える。感受性がこれだけ違うのだから、わかりあえなくて当然だよなというごくごく当たり前のことを確認する。
だからこそ、星の数ほどある小説の中でこの話に出会えたことを感謝したい。この話に涙できる自分でよかったとも思いたい。
これからも仕事を頑張ろうと思う。